剣道形六本目は、太刀の形の中でも手順を覚えたつもりなのに動きがぎこちなく見えやすい形で、下段から攻め上がる仕太刀、左上段に変化する打太刀、小手をすり上げて打つ一拍子の所作が続くため、単なる順番暗記だけでは安定しにくい項目です。
特に三段受審前後の稽古では、六本目の「小手すり上げ小手」を、払い小手のように大きく弾いてしまう、打太刀の小手が小さくならない、仕太刀の攻めが止まる、残心の左上段が形だけになる、という悩みが起こりやすくなります。
六本目で大切なのは、打太刀がただ打たせる役になり、仕太刀がただ返す役になることではなく、下段から中心を攻められた打太刀が応じ、上段へ変化し、さらに中段へ戻って小手を打つという必然を、両者の気位と間合いでつなげることです。
ここでは、剣道形六本目の手順、打太刀と仕太刀の役割、すり上げの要領、審査で目立ちやすい乱れ、五本目や七本目との違い、初心者が稽古で意識したい修正法まで、形の流れが頭と体の両方に残るように整理します。
剣道形六本目は小手すり上げ小手

剣道形六本目は、一般に「小手すり上げ小手」と整理される太刀の形で、打太刀が中段、仕太刀が下段から始まり、仕太刀が下段から中心を攻め上げるところに大きな特徴があります。
六本目は、五本目のように面をすり上げて面を打つ形とは違い、相手の小手打ちに対して右鎬を使い、左へ開きながら小さくすり上げ、すぐに右足を踏み出して小手を打つ流れになります。
全日本剣道連盟公開の日本剣道形資料でも、六本目は打太刀と仕太刀の構えの変化、右小手への打突、残心までが細かく示されており、動作の順番だけでなく理合を理解して稽古することが重要です。
技名は小手すり上げ小手
剣道形六本目の技名は、打太刀の小手打ちを仕太刀がすり上げ、打太刀の小手を打ち返す内容から、小手すり上げ小手と考えると全体像をつかみやすくなります。
ただし、稽古の現場では小手払い小手のような言い方で説明されることもあり、その言葉だけを頼りにすると、木刀を横へ強く払う動きになってしまう危険があります。
六本目で求められるのは、相手の太刀を乱暴に弾き飛ばすことではなく、打太刀の打突線に対して自分の右鎬を働かせ、刃筋と手の内を保ったまま軌道を変えて、打ち返しにつなげる所作です。
そのため、名称を覚えるときは「小手を受ける形」ではなく「小手をすり上げて小手を打つ形」と理解すると、仕太刀の動作が守りで終わらず、攻めと打突が一体になりやすくなります。
審査や講習では名称そのものを声に出す場面は少なくても、技の性質をどう理解しているかは、木刀の速さ、間合い、刃筋、残心に自然と表れるため、最初に技名の意味を押さえることが大切です。
始まりは中段と下段
六本目は、打太刀が中段、仕太刀が下段に構えて始まるため、最初の立ち合いからすでに役割の違いがはっきり表れます。
打太刀の中段は相手を制する基本の構えであり、仕太刀の下段は一見すると低く静かな構えですが、そこから相手の両拳の中心を攻め上げる準備を含んでいます。
| 役割 | 開始の構え | 意識する中心 |
|---|---|---|
| 打太刀 | 中段 | 相手の変化に応じる |
| 仕太刀 | 下段 | 両拳の中心を攻める |
| 共通 | 右足から進む | 間合いを崩さない |
この開始の構えを形だけで済ませると、仕太刀が下段からただ木刀を持ち上げるだけになり、打太刀がなぜ上段へ変化するのかという理合が見えなくなります。
下段は弱い構えではなく、相手の中心を下から制しながら変化を引き出す構えだと考えると、六本目の最初の三歩に気迫が生まれ、後の小手すり上げ小手にも説得力が出ます。
仕太刀が流れを動かす
剣道形では多くの場合、打太刀が機を作り、仕太刀がそれに応じて勝つ流れが基本になりますが、六本目では仕太刀が下段から中段へ攻め上げることによって、攻防がはっきり動き出します。
仕太刀は相手に近づいてから急に持ち上げるのではなく、間合いに接するところで機を見て、打太刀の両拳の中心を割るような気持ちで剣先を上げていきます。
この攻め上げに対し、打太刀は剣先を少し下げて応じようとしますが、仕太刀の中心を押さえ切れないため、右足を引いて諸手左上段に変化する流れになります。
つまり六本目の前半は、仕太刀が勝手に中段へ戻る場面ではなく、仕太刀の攻めが打太刀の変化を引き出し、その変化に仕太刀がさらに詰めるという攻め合いの連続です。
稽古では、仕太刀が木刀の高さだけを変えると軽く見えるため、腹から前へ出る気持ち、相手の中心を取る剣先、目付を切らさない姿勢を同時に整えることが必要です。
前半の流れを短く整理する
六本目は動作が多く見えるため、初めは細部をすべて同時に覚えようとすると、足が止まり、木刀の向きが曖昧になり、打太刀と仕太刀の呼吸も合いにくくなります。
まずは、開始の構え、三歩の前進、仕太刀の攻め上げ、打太刀の左上段への変化、仕太刀の一歩の攻め、打太刀の中段復帰という前半の骨格をつかむと、後半の小手打ちへ自然につながります。
- 打太刀は中段で始める
- 仕太刀は下段で始める
- 互いに右足から進む
- 仕太刀が中心を攻め上げる
- 打太刀が左上段へ引く
- 仕太刀がさらに攻める
- 打太刀が中段へ戻る
この整理で大切なのは、前半を単なる移動の順番にしないことで、仕太刀が攻めたから打太刀が変化し、打太刀が変化したから仕太刀が詰めるという因果関係を残すことです。
初心者は足順を先に覚えても構いませんが、慣れてきたら一つひとつの動作の前に相手への働きかけがあるかを確認し、形が途切れた体操のように見えないように稽古する必要があります。
小手打ちは小さく鋭い
六本目の後半では、打太刀が左足を引いて中段に戻り、機を見て仕太刀の右小手を小さく打つため、ここで打太刀の振りが大きくなりすぎると形全体の性格が崩れます。
打太刀の小手は、試合で大きく振りかぶって打ち込むような動きではなく、相手との間合いがすでに詰まった状態で、中心を保ちながら必要な分だけ打つ小さな打突です。
この小手が大きすぎると、仕太刀がすり上げる対象が現実の六本目から外れ、仕太刀も大きく払ったり、体を逃がしたりしなければならなくなります。
反対に、打太刀が弱く形だけで小手を出すと、仕太刀のすり上げにも緊張感がなくなり、打たれまいとする相手を制して勝つという剣道形の理合が薄くなります。
打太刀は「小さくても本当に当てるつもり」で右小手を打ち、仕太刀は「小さくても確実にすり上げて返す」ことで、六本目らしい鋭さが生まれます。
すり上げは右鎬で行う
仕太刀は、打太刀の右小手打ちに対して、左足を左へ開きながら右鎬を使い、小さく半円を描くようにすり上げることが大切です。
ここで刃で受ける、横から強く払う、木刀を大きく回す、腕だけで跳ね上げるという動きになると、すり上げの理合から離れてしまいます。
| 動作 | 良い意識 | 乱れやすい例 |
|---|---|---|
| 左足を開く | 体をさばく | 腰だけ逃げる |
| 右鎬を使う | 線を変える | 刃で受ける |
| 小さく回す | 一拍子にする | 大きく払う |
| 右足で打つ | すぐ攻め返す | 受けて止まる |
すり上げは相手の刀を消す動作ではなく、自分の打突を成立させるために相手の打突線を外す動作なので、すり上げた瞬間に気持ちが切れると小手打ちが遅れます。
仕太刀は左へ開いて安全な位置に逃げるのではなく、相手の小手をすり上げながら勝つ位置へ入り、右足を踏み出して打太刀の右小手を正確に打つ意識を持つと安定します。
残心は左上段で示す
仕太刀が打太刀の右小手を打った後、打太刀は剣先を下げ、左足から左斜め後ろへ大きく引き、仕太刀はさらに攻める気持ちを保って左諸手上段で残心を示します。
この残心は、打ったから終わりという合図ではなく、打突後も相手を制し続け、なおも攻められる気迫を姿勢として示す場面です。
初心者は小手を打った瞬間に安心して目付が外れたり、左上段が高く掲げるだけの形になったりしやすいため、打太刀の退きに対して自分が中心を取り続けているかを確認する必要があります。
左上段は、腕を固めて見せるものではなく、打突後の気位、体の充実、相手への圧力を表す所作なので、足幅、腰の向き、剣先の位置がばらばらになると残心が弱く見えます。
残心の後は十分に気持ちを保ってから中段に戻るため、打突、残心、中段復帰を急いで処理せず、六本目の勝ちが最後まで続くように呼吸を整えることが大切です。
六本目の要点は縁を切らさないこと
剣道形六本目で最も難しいのは、手順そのものよりも、下段からの攻め、上段への変化、中段への戻り、小手打ち、すり上げ、小手打ち、残心までの縁を切らさないことです。
縁が切れるとは、動作の途中で相手との関係が途切れ、次の動作を思い出してから動くように見える状態で、六本目では特に打太刀が左上段から中段に戻る場面と、仕太刀がすり上げて打つ場面で起こりやすくなります。
- 目付を外さない
- 足を止めすぎない
- 剣先の意味を失わない
- 攻め返しを遅らせない
- 残心を急がない
縁を切らさないためには、速く動くことだけを考えるのではなく、相手の変化を感じてから必要な動作が出るように、打太刀と仕太刀が互いに呼吸を合わせて稽古する必要があります。
六本目は動きが細かいため、焦るほどバラバラに見えますが、相手を見て、中心を取り、次の動作へ気持ちを残す稽古を重ねると、手順の多さがむしろ攻防の深さとして表れます。
六本目の手順を体に入れる稽古法

六本目を覚えるときは、最初から通し稽古だけを繰り返すよりも、前半の攻め合い、後半の小手すり上げ、打突後の残心という三つのまとまりに分けて稽古したほうが理解しやすくなります。
通し稽古は全体の流れをつかむうえで必要ですが、毎回同じ場所で崩れる場合は、その部分だけを取り出して、足、剣先、目付、呼吸をゆっくり確認する時間を作ることが大切です。
六本目は手順暗記から理合理解へ進むほど良くなる形なので、まず間違えずに動く段階、次に相手との関係を途切れさせない段階、最後に審査で落ち着いて示せる段階へ進める意識が必要です。
三つのまとまりで覚える
六本目を一息に覚えようとすると、どこで右足を出すのか、どこで左足を引くのか、どの瞬間に上段へ変わるのかが混乱しやすくなります。
そこで、最初は形を三つのまとまりに分け、前半は仕太刀の攻めが打太刀の左上段を引き出す部分、中央は打太刀が中段へ戻って小手を打つ部分、後半は仕太刀がすり上げ小手を打って残心を示す部分として整理します。
| まとまり | 中心となる動作 | 稽古の狙い |
|---|---|---|
| 前半 | 下段から攻め上げる | 変化の必然を作る |
| 中央 | 中段に戻って小手 | 小さく正確に打つ |
| 後半 | すり上げ小手 | 一拍子で勝つ |
この分け方を使うと、失敗したときに「全部が悪い」と感じるのではなく、前半の攻めが弱いのか、打太刀の小手が大きいのか、仕太刀のすり上げが遅いのかを判断しやすくなります。
慣れてきたら三つのまとまりをつなげ、区切りを感じさせないように動くことで、手順を分けて覚えながらも、演武では一つの攻防として見せられるようになります。
足順は声に出して確認する
六本目では右足、左足、開き足、踏み出し、退き足が連続するため、稽古の初期段階では足順をあいまいにしたまま木刀操作だけを覚えると後で修正に苦労します。
特に仕太刀は、下段から攻め上げた後に右足から大きく一歩進む場面、左足を左に開いてすり上げる場面、右足を踏み出して小手を打つ場面、左足を踏み出して左上段で残心を示す場面が続きます。
- 三歩前進は右足から
- 攻め込みも右足から
- すり上げは左足を開く
- 小手打ちは右足を出す
- 残心は左足で攻める
打太刀も、仕太刀の攻めに応じて右足を引いて左上段になり、左足を引いて中段に戻り、最後は左足から左斜め後ろへ大きく下がるため、仕太刀だけが足を覚えればよいわけではありません。
足順を声に出して確認する稽古は見た目には地味ですが、足が決まると剣先の高さや体の向きも安定し、六本目で起こりやすい前後左右の迷いを減らせます。
ゆっくり稽古で理合を残す
六本目は小さく鋭い動作が魅力の形ですが、最初から速さを求めると、すり上げが払いになり、打突が空振りになり、残心がただのポーズになりやすくなります。
ゆっくり稽古では、仕太刀の下段から中段への攻め上げが打太刀の両拳の中心に向いているか、打太刀が本当に押さえようとしているか、上段への変化が早すぎたり遅すぎたりしないかを見ます。
また、打太刀の小手打ちに対して仕太刀が左足を開くタイミングは、早く逃げすぎると相手の打突を受けていないように見え、遅すぎると体が詰まってすり上げが大きくなります。
ゆっくり動いても相手との緊張が保てるようになると、速くしたときにも縁が切れにくくなり、六本目らしい一拍子の小手すり上げ小手が出やすくなります。
通し稽古で形を覚え、分解稽古で乱れを直し、最後に通常の速さへ戻す流れを作ると、審査前に慌てて手順だけを詰め込むよりも安定した仕上がりになります。
審査で差が出る所作の整え方

昇段審査で六本目を見る側は、手順を知っているかだけでなく、打太刀と仕太刀がそれぞれの役割を理解し、間合い、気位、刃筋、残心を崩さずに示せているかを見ています。
六本目は、動きが小さくなるべき場面と、気持ちを大きく示すべき場面が混在するため、力を抜きすぎると弱く見え、力みすぎると払い技や大振りに見えてしまう難しさがあります。
全日本剣道連盟の審査員寸評でも、六本目の小手すり上げ小手がすり上げではなく払う動作になっていた点が課題として挙げられており、細部の質が評価に影響しやすいことがわかります。
払いに見せない
六本目で最も目立ちやすい失敗は、仕太刀のすり上げが横から強く払う動作に見えてしまうことです。
払いに見える原因は、打太刀の小手が大きすぎること、仕太刀が右鎬ではなく腕力で木刀を動かすこと、左足の開きが遅れて体を安全な位置に置けないこと、打ち返しへの気持ちが遅れることにあります。
| 失敗 | 原因 | 修正の方向 |
|---|---|---|
| 横へ払う | 腕で処理する | 右鎬を意識する |
| 大きく回す | 距離が遠い | 間合いを合わせる |
| 受けて止まる | 打つ気が遅い | 一拍子で返す |
| 刃で受ける | 太刀筋が曖昧 | 刃筋を整える |
すり上げを直すときは、木刀を強く当てる練習よりも、打太刀の小手打ちの線に対して右鎬が触れ、相手の打突線が自然に外れ、そのまま小手へ返る軌道をゆっくり確かめることが効果的です。
見た目の迫力を出そうとして大きく払うより、小さくても刃筋が通り、体がさばけ、打突が遅れない所作のほうが、六本目の理合に合った整った動きになります。
打太刀は打たせ役で終わらない
打太刀は仕太刀に勝たせる役割を持ちますが、だからといって弱く打つ役、手順を進めるだけの役、相手に合わせて形を崩す役ではありません。
六本目の打太刀は、中段で相手と向き合い、仕太刀の下段からの攻めに応じ、押さえ切れずに左上段へ変化し、再び中段へ戻って機を見て小手を打つという大切な働きを担います。
- 中段の中心を保つ
- 仕太刀の攻めに応じる
- 左上段へ自然に変化する
- 小手は小さく本気で打つ
- 退くときも目付を切らない
打太刀の小手が形だけになると、仕太刀は本当にすり上げたように見えず、六本目全体が約束手順の確認に見えてしまいます。
反対に打太刀が強引に打ち込みすぎると、仕太刀の形が乱れるため、打太刀は相手を導きながらも真剣な気位を失わず、約束の中で実感のある打突を示すことが大切です。
目付と呼吸を合わせる
六本目は手数が多いため、足順や木刀の位置に気を取られると、打太刀と仕太刀の目付が途中で外れやすくなります。
目付が外れると、相手を見て動く形ではなく、自分の記憶を追って動く形に見えてしまい、特に仕太刀が下段から攻め上げる場面や、打太刀が中段に戻って小手を打つ場面の緊張感が弱くなります。
呼吸についても、相手より先に動こうと焦ると仕太刀の攻めが早すぎ、相手を待ちすぎると全体が止まるため、互いの間合いが詰まったところで自然に機が生まれるように稽古する必要があります。
審査では極端な速さよりも、落ち着いた目付、途切れない呼吸、相手との関係が続いていることが大切で、六本目の複雑な所作ほど基本の姿勢が見えやすくなります。
自分だけで練習するときは鏡や動画で姿勢を見てもよいですが、最終的には相手と向き合ったときに目付が落ちず、呼吸が合うかを確認しなければなりません。
五本目と七本目から見る六本目の位置づけ

六本目を深く理解するには、単独で手順を覚えるだけでなく、前後にある五本目と七本目との違いを見ることが役立ちます。
五本目は面すり上げ面、六本目は小手すり上げ小手、七本目は面抜き胴という流れで、太刀の形の後半では、相手の打突に対してどのように中心を外し、どのように勝ちへつなげるかがより細かく問われます。
六本目は五本目のすり上げの考え方を引き継ぎながら、打突部位が小手になり、打太刀と仕太刀の構えの変化も複雑になるため、太刀の形全体の理解をつなぐ重要な位置にあります。
五本目との違い
五本目も六本目も、相手の打突に対してすり上げて打ち返す点では共通していますが、五本目は面すり上げ面であり、六本目は小手すり上げ小手であるため、距離感と木刀操作の大きさが異なります。
五本目では面打ちに対してすり上げて面を打つため、比較的振りの大きさや上下の変化を感じやすい一方、六本目では小手打ちに対して小さく鋭く処理するため、手の内と刃筋の乱れが目立ちやすくなります。
| 項目 | 五本目 | 六本目 |
|---|---|---|
| 主な技 | 面すり上げ面 | 小手すり上げ小手 |
| 打突部位 | 面 | 小手 |
| 処理の印象 | 上下の変化 | 小さな鋭さ |
| 注意点 | 振りすぎない | 払わない |
五本目の感覚のまま六本目を行うと、仕太刀の木刀操作が大きくなり、打太刀の小手をすり上げるというより、相手の刀を大きくはじく動きになりがちです。
六本目では、五本目で学んだすり上げの考え方を保ちながら、小手という近い部位に合わせて、より小さく、より速く、しかし雑にならない所作へ調整することが大切です。
七本目へつながる意識
七本目は面抜き胴であり、六本目のすり上げ小手とは技の種類が異なりますが、相手の打突を見切り、体をさばき、打突後も気を抜かないという意味では連続した学びがあります。
六本目で仕太刀が左へ開きながら小手をすり上げる経験は、七本目で相手の面を抜いて胴を打つときの、相手の力を正面から受け止めずに勝つ考え方にもつながります。
- 相手をよく見る
- 正面で固まらない
- 体さばきを使う
- 打突後に気を抜かない
- 残心を形だけにしない
ただし、六本目はすり上げであり、七本目は抜き胴なので、同じ体さばきの感覚であっても、木刀が相手の太刀にどのように関わるかはまったく同じではありません。
六本目を丁寧に稽古すると、相手の打突を怖がって受けるのではなく、相手の動きに応じながら自分の勝ちへ転じる感覚が育ち、七本目の理解も深まりやすくなります。
太刀の形後半で問われること
太刀の形の後半になるほど、単純な打つ、抜く、返すだけではなく、相手の中心をどう崩し、どの瞬間に機が生まれ、どのように体を使って勝ちへつなげるかが細かく問われます。
六本目では、仕太刀が下段から攻め上げるため、最初から相手との心理的なやり取りが濃く、打太刀も仕太刀も形を覚えているだけでは動きが軽く見えてしまいます。
この段階では、足の正確さ、木刀の角度、打突部位の正確さに加えて、相手を圧する気位、動作の間、打突後の余韻、戻り方の落ち着きまで稽古の対象になります。
初心者のうちは手順を間違えないことが第一ですが、三段以上を目指す段階では、六本目を通じて「なぜその動作になるのか」を説明できる程度まで理解しておくと、稽古の質が大きく変わります。
太刀の形後半で身につく相手とのつながりは、竹刀稽古の攻め合いにも通じるため、六本目を形だけの課題と考えず、剣道そのものの理合を学ぶ機会として扱うことが大切です。
初心者がつまずく原因と直し方

剣道形六本目で初心者がつまずく原因は、手順が多いからだけではなく、構えの変化、足さばき、間合い、木刀の接触、打突後の残心が短い時間に集中しているからです。
ひとつの動作を直そうとして別の動作が崩れることも多いため、稽古では原因を分けて考え、足だけ、剣先だけ、相手との呼吸だけというように修正点を限定すると改善しやすくなります。
ここでは、六本目でよく起こる間違いを、暗記不足、間合いの乱れ、打突の雑さという三つの視点から整理し、実際の稽古で使える直し方へつなげます。
手順暗記だけで止まる
六本目を初めて覚える段階では、手順を暗記すること自体が必要ですが、暗記だけで止まると、動作と動作の間に理由がなくなり、形が不自然に途切れて見えます。
たとえば、仕太刀が下段から中段へ上げる場面を「次は上げる」と覚えるだけでは、打太刀の左上段への変化が相手に動かされた結果ではなく、予定された移動に見えてしまいます。
| 段階 | 目標 | 注意点 |
|---|---|---|
| 暗記 | 順番を間違えない | 足順を固定する |
| 理解 | 理由を説明する | 攻防を意識する |
| 表現 | 相手とつなぐ | 縁を切らさない |
暗記から抜け出すには、各動作の前に「相手に何が起きているのか」を一言で言えるようにするとよく、仕太刀が攻める、打太刀が応じる、打太刀が小手を打つ、仕太刀が勝つという流れが見えやすくなります。
手順を忘れないための反復と、理合を理解するための確認は別の稽古なので、通し稽古だけで不安が残る場合は、動作の意味を言葉にしてから動く時間を作ると効果的です。
間合いが近すぎる
六本目では、間合いが近すぎると打太刀の小手が窮屈になり、仕太刀のすり上げも体を逃がすような動作になってしまいます。
反対に遠すぎると、仕太刀の小手打ちが届かず、打太刀も実感のある小手を打てないため、互いに腕だけを伸ばして形を合わせる不自然な動きになりやすくなります。
- 三歩の歩幅をそろえる
- 攻め込みの一歩を大きくしすぎない
- 小手が届く距離を確認する
- 打突後の退き幅を急がない
- 相手の体格差を考える
間合いを整えるには、最初の三歩の歩幅を一定にし、仕太刀が攻め上げる地点、打太刀が左上段へ引く地点、仕太刀が一歩攻める地点を、毎回同じ感覚で作ることが大切です。
相手の身長や腕の長さによって感覚は少し変わるため、固定した距離だけを信じるのではなく、打太刀の小手が自然に出て、仕太刀のすり上げ小手が無理なく届く位置を稽古相手と確認すると安定します。
打突部位が曖昧になる
六本目では、打太刀が仕太刀の右小手を打ち、仕太刀が打太刀の右小手を打つため、打突部位が曖昧になると全体の説得力が弱くなります。
小手を打つつもりでも、木刀の物打ちが高すぎて面の方向へ流れたり、低すぎて手元をなでるようになったりすると、相手の小手を正確に制した形には見えません。
また、仕太刀がすり上げに意識を取られすぎると、最後の小手打ちが当てにいく動作になり、刃筋や手の内が乱れてしまうことがあります。
修正するときは、打太刀の小手の高さ、仕太刀の右鎬の通り道、打ち返した物打ちの位置をゆっくり確認し、速さよりも正確さを優先します。
小手の打突部位がはっきりすると、打太刀の本気度と仕太刀の勝ちが見えやすくなり、六本目の小さな動作が弱い動作ではなく、鋭く決まった動作として伝わります。
六本目は攻め合いを切らさない稽古で安定する
剣道形六本目は、打太刀が中段、仕太刀が下段から始まり、仕太刀の攻め上げ、打太刀の左上段への変化、中段への戻り、小手打ち、右鎬でのすり上げ小手、左上段の残心へ進む形です。
手順だけを見ると複雑に感じますが、中心を攻められた打太刀が変化し、仕太刀がさらに詰め、打太刀が機を見て小手を打ち、仕太刀がすり上げて勝つという攻防で考えると、動きの理由がつながります。
審査で乱れやすいのは、仕太刀のすり上げが払いに見えること、打太刀の小手が大きすぎること、足順が曖昧になること、残心を急ぐこと、目付が外れて縁が切れることです。
稽古では、三つのまとまりで手順を整理し、足順を声に出して確認し、ゆっくりした動きで右鎬、刃筋、間合い、呼吸を整えてから通常の速さへ戻すと、六本目の質が上がりやすくなります。
六本目は小さな技だからこそ雑さが目立ちますが、相手を見て、中心を取り、すり上げから打突までを一拍子でつなぎ、打った後も気を切らさない稽古を重ねれば、太刀の形後半にふさわしい充実した形へ近づきます。


